「なんとなく加入」に注意!現役FPが教える新婚夫婦の保険の選び方と注意点

結婚で変わるライフスタイルと保障の考え方

今回は、20代で結婚式を終えたばかりの新婚夫婦を例に、保険のあり方や見直しの必要性についてお話していきます。
まず、結婚というのは「違う人生を歩んできた二人が、これから一緒に生活を始める」という大きな転機です。住まいも変わり、家計は共有され、休日の過ごし方や将来の夢も“ひとりのこと”ではなく“ふたりのこと”になっていきます。男女の価値観の違い、育ってきた環境の違いから、すれ違いや小さなズレも出てくるでしょう。それは当然のこと。でも、その“違い”に気づいたときが、お互いの価値観をすり合わせる絶好のチャンスでもあります。
この「すり合わせ」の対象は、家具の配置や食費の管理だけではありません。“保険”もそのひとつなのです。

保険への意識は、男女でこんなにも違う

たとえば、20代男性であれば、今まで大きな病気やケガもなく、「保険なんて使ったことがない」「そもそも必要性を感じない」という人も多いです。実際、親が昔から掛けていた保険をそのまま引き継いでいて、「あ、俺って保険入ってたんだ」と結婚を機に初めて知るケースも少なくありません。
一方、女性はどうでしょうか。これから妊娠・出産という大きなライフイベントが控えています。妊娠・出産には想像以上にお金がかかること、そして入院や手術のリスクもあることを、周囲の先輩ママや同僚から耳にする機会が増えるころ。それまで他人事だった保険が、急に“自分ごと”としてリアルに感じられるようになるタイミングです。
見直しが、家族を守るきっかけに
実際に私が担当したお客様でも、新婚のご夫婦の保険相談をきっかけに、そこからご兄弟・ご両親・友人まで紹介いただき、家族全体で保険の見直しを行ったことがありました。
「そもそも自分はどんな保険に入っているのか?」 「それって、今の自分たちに合っているのか?」 「まだ入っていないけど、本当に必要なのか?」
まずはこの問いかけから始めてみることが大切です。
人生でもっとも“貯めやすい”時期に、将来を考える
お子さんがまだいないダブルインカム(共働き)のご家庭は、人生の中でもっともお金が貯まりやすい時期でもあります。将来の教育資金、マイカー購入、住宅の頭金――この時期にしっかりと計画を立てて準備しておくと、のちのち大きな安心につながります。
私自身、ライフプラン作成をお手伝いする中で、この時期にご夫婦が将来にワクワクしながら夢を語り合う姿を見るのがとても好きです。初めてのライフプランだからこそ、希望にあふれた内容になるケースが多いのです。

保険が“必要になるとき”は突然やってくる

もちろん、現実的には思いもよらない事態が起きることもあります。ある女性のお客様は、結婚して間もないタイミングで乳がんを発症。治療費がかさみ、夫婦の貯金を切り崩して闘病を続けるしかありませんでした。残念ながら保険には入っておらず、「せめて少しでも保障があれば…」という後悔の言葉が印象的でした。
このようなとき、多くの夫婦が直面するのが保険やお金に対する価値観の違いです。 「保険なんか必要ないよ」と言う夫と、「いざというときに備えてほしい」と願う妻。お互いに初めて本音を話し合う、そんな“きっかけ”になるのも、実はこの時期です。
また、ご両親が昔からかけてくれていた保険を見直すと、「あのときの保険が今こんなに役立つなんて…」と、“お宝保険”の価値に気づくこともあります

古い保険、ここをチェック!

受取人が親のまま?

結婚を機にまず確認しておきたいのが、「保険金の受取人は誰になっているか?」という点です。
ご両親が昔からかけてくれていた保険を、そのまま引き継いでいるケースは少なくありません。そして意外と多いのが、保険金の受取人が“親のまま”になっているというパターンです。
結婚しても自動的に受取人が配偶者に変わることはありません。変更の手続きをしない限り、いざというとき、保険金は親に支払われてしまいます。受取人の変更は、入籍や結婚式のあとが一つのタイミング。新たに家族になったパートナーを守るために、今のうちに見直しておくべきポイントです。
ただ、すべてを機械的に変更すべきかというと、そうでもありません。あるご夫婦の話では、ご主人が「若い頃に父を亡くし、母ひとりで育ててもらった。何かあったとき、少しでも母に残したい」という理由で、あえて受取人の一部は母親のままにしておきたいという希望を話してくれました。
このように、保険の受取人には“想い”が込められていることもあるのです。だからこそ、単純に「全部変えましょう」ではなく、パートナーと話し合いながら、今の価値観に沿って判断するのが大切だと感じます。
また、契約者が親御さんのままになっている場合は、名義変更や証券の取り寄せが必要になります。名義を誰にするか、今後どう活用していくかを家族で話し合う良い機会にもなるでしょう。
さらに、ご両親が贈与や資産形成の一環として子ども名義の積立型保険を掛けてくれていることもあります。そうした保険は結婚資金として使うこともあれば、自分たちの子どものために継続していくことも。受取人の変更は、未来の世代への想いを受け継ぐタイミングでもあるのです。

入院日額が古すぎる?日額5,000円問題”

30代以下の世代で保険を見直すと、「入院給付金 日額5,000円」と書かれた古い保険証券をよく見かけます。これは、1990年〜2000年代初頭に契約された医療保険で標準的だった設計です。
当時は入院日数が長く、1週間〜10日程度が普通でした。保険も「1日5,000円の給付が10日間出れば5万円」といった想定で組まれていたのです。
しかし今では、医療の進歩により入院は短期化し、多くの治療が日帰りや通院で済むようになりました。そのため「5,000円×3日=15,000円」では、差額ベッド代や交通費、仕事の休業補償などがまかなえず、「これだけ?」と感じる方も多いのが実情です。
ある新婚夫婦のケースでは、ご主人が盲腸で3日間入院し、差額ベッド代が1日12,000円かかりました。ところが給付金は「5,000円×3日分=15,000円」。費用の半分もカバーできず、「安心のための保険なのに、これでは足りない」と感じたそうです。
最近の医療保険は、入院1日目からまとまった一時金が出る設計や、通院・日帰り手術にも対応できる保障が増えています。給付金の出方も「日額型」から「一時金型」へと変わりつつある中で、古い保険のままだと実際の医療費の負担に対応しきれないリスクがあるのです。
保障内容は、時代とともにアップデートが必要です。古い設計のまま放置するのではなく、「今の自分たちに本当に合っているか?」を考えてみることが大切です。

医療技術の進化と“給付のギャップ

医療はこの10〜20年で大きく進化しています。かつては10日以上の入院が必要だったような手術も、現在では内視鏡や低侵襲治療の普及により、数日、あるいは日帰りでの退院が可能なケースも増えています。
一方で、古い医療保険には「1泊2日以上の入院でないと給付対象外」「日帰り手術は保障外」など、今の医療現場では実情に合わない条件が残っていることも少なくありません。
たとえば、ある女性のお客様は卵巣のう腫の摘出手術を受けましたが、経過が良好で1日で退院。しかし加入していた保険には「1泊2日以上」の条件があり、給付金は支払われませんでした。「保険って、こういうときのためのものじゃなかったの?」という言葉が今でも印象に残っています。
また、がん治療や心臓病治療の多くが通院ベースで行われる時代になっており、入院給付だけではカバーしきれない実費が発生するケースもあります。
最近の医療保険では、
• 入院1日でも給付対象
• 日帰り手術や通院も保障
• がんや生活習慣病に対する手厚い保障
といった設計が一般的になっています。
医療が進化すればするほど、「保障されるはず」と思っていた治療が対象外になってしまうという“ギャップ”が起きやすくなります。だからこそ、今の医療技術・治療傾向に合った保障内容にアップデートしておくことが重要なのです。

特約が自分に合っているか?

医療保険の保障内容は「主契約」だけでなく、「特約」で大きく変わります。特約とは、基本の保障に追加で付けられるオプションのようなもので、自分に合ったリスク対策をするうえで非常に重要な役割を果たします。
男女やライフステージによって必要な特約は異なります。たとえば女性であれば、妊娠・出産にともなう入院や、乳がん・子宮がんなどに備える「女性疾病特約」、短期入院でも給付される「入院一時金特約」などが人気です。男性の場合は、がんや心筋梗塞・脳卒中といった重篤な病気に備えて「三大疾病特約」や「生活習慣病特約」などを検討される方が多いです。
最近注目されているのが、「8大疾病延長給付特約」です。これは、がん・脳卒中・心筋梗塞などの特定疾病にかかった場合、通常60日や120日で打ち切られる入院給付の支払い日数が無制限に延長されるというものです。
昔は医療保険とがん保険を別々に加入するのが一般的でしたが、今は医療保険の中にがんの保障も組み込める時代。1つの契約で広くカバーできるようになっており、特約の組み合わせ次第で無駄を省きつつ、手厚い保障を確保できます。
ただし、特約は万能ではありません。時代やニーズに合わせて見直しが必要です。妊娠・出産が終わったタイミング、子どもが生まれたとき、住宅を購入したときなど、ライフイベントに応じて「今の自分に合っているか」を確認しましょう。
2020年代以降の医療保険では、先進医療や通院保障、特定疾病の一時金など、必要性の高い特約が多く用意されています。これらの最新の選択肢を知り、古い保険との違いを見比べることも、保険見直しの大切な一歩になります。

そもそも「自分に合った保険」って?

大事なことが3つのポイント

保険を考えるうえで、大事なことが3つあります。これを整理するだけでも、「自分に合った保険」が見えてきます。

何のため?(目的)

まず1つ目は、“何のためにその保険に加入するのか?”という目的です。
たとえば、独身の方で一人暮らしをしている場合、「もし病気になっても親に頼りたくない」「まだ貯蓄がないから、最低限の医療保険に加入しておこう」と考える方がいます。
また、「若くても何が起こるか分からない。親に迷惑をかけたくないし、親も高齢で頼れない。だから最低限の死亡保障を持っておこう」という方もいます。
「自分は眼科系の疾患リスクが高い」「乳がんや子宮がんなど女性特有の病気が心配」「激務で倒れた先輩がいる」「職業柄ケガの可能性が高い」など、それぞれの“不安”が目的になります。
こうした目的は、年齢にかかわらず持っているものです。
結婚したらどうでしょう?
「将来子どもができるかもしれない」「病気で働けなくなったときに、相手に迷惑をかけたくない」そんな理由から医療保険や死亡保障を見直すケースもあります。
また、「奨学金や車のローンが残っている。自分が亡くなったときに配偶者にその負債を残したくない」「女手ひとつで育ててくれた母にも何かあったときにお金を残したい」など、相手や家族への想いが“目的”になることも。
子どもが生まれたら、「大学まで出してあげたい」「万が一、妻ひとりでは教育資金をまかなえない」「まだ家も買っていないし、住む場所すら困るかも」というように、“目的”はどんどん具体化していきます。
このように、ライフステージによって目的は変わるため、その都度追加したり見直していくことが重要です。

いつまで必要なのか?(期間)

「保険は一生入っておいた方がいい」と思う方もいるかもしれませんが、大前提として「お金が十分にあれば、保険は必要ない」のです。
保険はあくまで、経済的損失や残された遺族の生活を支えるためのもの。だからこそ、“資産が十分に貯まるまで”や“子どもが独立するまで”など、ある程度の期間を区切って持つべきものなのです。
たとえば、
• 医療保険は老後の社会保障が不安だから、終身保障にしておく
• 死亡保障は、子どもが大学を卒業するまでの約22年間だけ
• 働けなくなったときの就労不能保障や三大疾病保障は、現役世代(60〜65歳)まで手厚く
老後の資金や年金に関しては、「65歳まで積み立てて、65歳以降に年金として受け取る」など、支払いや受取時期をしっかり設計することがポイントです。

いくら必要なのか?(保険金)

最後に、保険でいくら保障を用意すればよいのか?という視点です。
たとえば、「子ども1人につき2,000万円の教育資金が必要」と言われています。このとき、500万円の保険に入っているから保険はいらない。いやいやまったく足りてないですよね。
また、日々の生活費に関しては、遺族年金である程度カバーされますが、それだけでは不足する可能性もあります。そもそも結婚して子どもが産まれた年齢や人数、御夫婦のご年収や借り入れは家庭によって異なります。
お金持ちで潤沢に資金があれば別ですが、やはり自分たちの必要な保障(保険金額)を算出した上で保険を設計していくのが大切です。
その不足分に対して、収入保障保険などで“月々の給料のように給付を受ける”仕組みを整えておけば、万が一の際も家計を支えられます。
保障内容によっては特約を追加したり、保険料が変動したりするため、やはりネットや自分だけで作るのは難しいところです。

保険の「カタチ」を知ろう

保険は「形のない商品」です。その中でも、生命保険と損害保険では大きく役割が異なります。今回は、自分の体に万が一があったときに備える「生命保険」について解説します。
なにも知らないまま保険に加入してしまうと、「こんなはずじゃなかった」と後悔することも。だからこそ、お客様には最低限の基礎知識として「保険の3つのカタチ」をご説明するようにしています。

【生命保険の3つの基本形】

ここでは、25歳の男性が「社会人になったから、何か1つ保険に入っておこうかな」と考えたと仮定して、以下の条件で3つの保険タイプを比較してみましょう。
• 契約者・被保険者:25歳の男性
• 保険期間:25歳から60歳まで
• 死亡保険金:1,000万円
• 保険料払込期間:契約開始から60歳まで

定期保険(掛け捨て型)

•月額保険料:3,110円
•総支払額:約130万円(35年間)
60歳までの間に死亡した場合にのみ、1,000万円が支払われます。61歳以降は保障がなくなる「掛け捨て型」です。
安い保険料で大きな保障を持てるのが最大のメリット。もし「61歳まで生きられる保証」があるなら不要ですが、人生は何があるか分かりません。リスクへの備えとして、合理的な選択肢と言えます。

養老保険(保障+貯蓄型)

• 月額保険料:23,420円
• 満期時受取額:約983万円
万が一のときは1,000万円、何もなければ60歳時に満期金が受け取れる「貯蓄機能つき保険」。保険料は高いですが、保障と貯蓄を1つでまかないたい方には選ばれています。
学資保険もこの養老型に近い設計です。

終身保険(一生涯保障)

• 月額保険料:19,890円
• 総支払額:約835万円(60歳払済)
保障が一生涯続き、死亡時は必ず1,000万円が支払われる「一生ものの保険」です。葬儀費用や相続対策としても活用されます。
途中解約による返戻金や、年金形式での受け取りなど、多様な活用方法があります。

これら3つの保険がベースとなり、「がん」「入院」「介護」「就労不能」などの特約(保証内容)を加えることで、今の多様な保険商品が構成されています。
生命保険は見えない商品だからこそ、販売側と契約者の間に知識のギャップが生まれやすくなります。だからこそ、まずは基本の「カタチ」を理解し、「自分に合った保険」を選ぶことが何より重要なのです。

保険は目に見えない商品だからこそ

保険は、車や家のように「試してから買う」ことができません。形がなく、目に見えないからこそ、多くの方が「なんとなく」で選んでしまいがちです。
ですが実際には、自分でも気づいていないリスクや、足りていない保障があるかもしれません。だからこそ、専門的な知識を持つ担当者と一緒にヒアリングを重ねながら、「万が一のときに困らない保険」を設計していくことが大切です。
保障が足りなければ、いざというときに困る。逆に、過剰であれば保険料を無駄に払いすぎているかもしれない。そうしたリスクを避け、「入っておいてよかった」「安心できた」と思えるような保険にしていくためには、信頼できるアドバイザーの存在が欠かせません。
そして何より大切なのは、一度加入して終わりではなく、ライフステージの変化に応じて「定期的に見直す」こと。
結婚・出産・住宅購入・転職・子どもの成長など、人生の節目ごとに、そのときどきのリスクに合わせて調整していく。そうして「自分にとってちょうどいい保険」を育てていく——そんな感覚が必要なのです。
次回は、実際に保険を見直すときの「具体的なステップ」や「事例」をご紹介していきます。すでに加入している方も、これから検討する方も、ぜひ参考にしてみてください。